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第90話  

私は胸が苦しくなり切なさも感じた。

全身が一瞬で言葉にできないほどつらくなった。

これは私たちの結婚指輪だ。

結婚の時、彼は気にも留めていなかったが、お爺さんはこの義理の孫娘には最高のものをくれたのだった。

二千万の結納金、高額な新居、トップジュエリーデザイナーがデザインした特注の結婚指輪。

のちに、結納金は育ててくれた叔母さんにあげた。

新居も私が身を落ち着ける所ではなかった。

私と一緒にいてくれたのは、たった一つのこの指輪だけだった。

新婚当初、私は心から嬉しくてこの指輪を薬指にはめていた。江川宏は私が江川グループで働いていると知った後、すぐに私に控えめにするよう求めた。

そして、その日のうちに薬指から外し、ネックレスにつけて首から下げていたのだ。

それから三年間ずっと首にさげていた。

かつて私を喜ばせてくれたものが、この時突然皮肉な存在になってしまった。私はこの指輪と同じく、江川宏にとっては公には出せない存在なのだ。

私は自嘲する笑みを浮かべた。「ただ外すのを忘れてただけよ」

確かに忘れていたのだ。

もっと的確に言うなら、慣れてしまったのだ。一人でいる時や不安な時に、この指輪を触る習慣があった。

————江川宏は私の夫だ。

かつてはただ彼の事が好きだというだけで、たくさんの力がもらえるような気がしていた。

彼は信じなかった。「ただ忘れてただけ?」

「いる?今すぐ元の持ち主に返すわ」

私は手を首の後ろに回し、ネックレスを外そうとした。

少しずつ、彼にまつわる物を私から消していく。

消すのが早ければ、その分忘れるのも早くなるはずだ。

江川宏は冷ややかな顔つきになり、私の手首を掴んで動きを止め、強い口調で言った。

「外すな、それは君のものだ」

「これは結婚指輪ですよ。江川宏さん」

私は口角を引っ張り、真剣に彼に念を押した。それと同時に自分にも念を押した。「今日外さなくても、一ヶ月後にはどのみち外すでしょう」

江川宏は薬指にある指輪を親指で撫で、あまり見せない固執した瞳で言った。「じゃあ、もし俺がずっと外さなかったらどうする?」

私は大きく息を吸って言った。「それはあなたの問題です」

ともかく、彼のそのわずかな言葉で、私たちの結婚に希望があるなどと思いたくなかった。

話が終わると、彼を振りほどき、身を翻して外に
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